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光環境が心身の健康に及ぼす影響

 古代ギリシャや古代エジプトには、太陽光が全ての生命の源であるとした、太陽療法が存在した。植物の成長に欠かせないのと同様に、我々人間にとっても光は、心の成長や健康に欠くことが出来ない。なぜなら我々の生体リズム、いわゆるサーカディアンリズムは、光によって導かれている[1]からである。

 近年、人工光源(蛍光灯、高輝度LED、スマホ、ゲーム等)の増加により、生体リズムは崩され、疲労感、 倦怠感、集中力低下、睡眠不足といった、心身の影響が急増している。これは、高照度の人工光源が体温の低下と睡眠を促す、メラトニンの分泌を抑制しているからである。これによる就寝時間の遅延(夜型化)は、生体リズムと社会生活リズムのズレを招き、不規則化、能力発揮阻害[2]といった状況に拍車をかけている。

 太陽光の豊富な日本では、光の重要性やその質を求める意識は、水や空気の質を求める程高くないだろう。しかし、欧米やカナダなど1年を通して陽光を十分に浴びることが難しい地域では、その意識も高いようだ。

 英国精神衛生研究所発表[3]によると、調査対象2000人のうち、半数以上がオフィスでの自然光の少なさを気にかけている。また、同所は、日光に当たらない時間が増えると、倦怠感や鬱病、季節的情動障害(SAD)を引き起こすと指摘する。季節的情動障害とは、冬季にのみ鬱病に似た症状が出る精神疾患である。イギリスでは、SADによる仕事効率低下の為、年間100万時間もの労働時間が無駄になっている。このように、光はメンタルヘルスにも影響を与える。

 また、問題は光の量だけではない。フリッツ・ホルヴィヒ博士の研究(1980)[4]では、「クールホワイト蛍光灯」(光のスペクトルの赤色と青紫色が欠けている光)と「フルスペクトル照明」(太陽光に似た人工照明)のストレス反応の比較検討を実施した。その結果、クールホワイト蛍光灯に暴露された人たちのみが、ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)とコルチゾール(ストレスホルモン)の値が、ストレスレベルに達していたことが分かった。

 これは、クールホワイト蛍光照明の教室で過ごす生徒達が、疲労、イライラ、注意力散漫を示した、ジョン・オット博士らの観察結果を立証するものであった。光源のスペクトルの成分差が、生物学的な乱れの程度と、その行動上の不適応に影響していると彼は結論している。彼の研究により、ドイツの病院や医療施設では、クールホワイト蛍光灯の使用が法律で禁じられている[5]。

 我が国の実態調査[6]でも、オフィスにおいて外部の自然環境を積極的に導入することで、実験実施後、光環境の重要度とそれによる満足度が上昇したことがわかった。また、それによる睡眠効率、中途覚醒の改善も見られた。

 一方、20世紀中の実現は不可能といわれた青色LEDの開発で、私達の生活は躍進的に変化した。それにより日本企業もまた、光環境を整えるべく商品開発に尽力している。生活空間、生活シーンに合わせた、明るさに連動(シンクロ)して光色が変化する「シンクロ調色LED照明システム」の開発[7]である。この開発は、「クルイトフ(オランダの物理学者)の快適領域[8]」に基づいている。色温度と照度の関係には、人が快適と感じる領域があり、色温度が低いと低照度が快適であり、色温度が高いと高照度が快適とされている。これにより、朝、日中、夕方、晩とシーンに合わせて調光を行うことで、余分な光の刺激を受けずにサーカディアンリズムを整えることが出来るのだ。

 このように、自然光、人工光を含めた「光の量」と「光の質」の両面からのアプローチによって、心身の健康維持が期待される。70年代以降に流行った「窓際族」。光の重要性が世に浸透する中で、自然光を身体で感じる「窓際」は、本来の意味から離れ、映画館のプレミアムシートに匹敵する程の、価値のある場所となるであろう。

 

参考文献:

1. 戸田直宏: サーカディアンリズムへの光の影響(<特集>光の色色), 照明学会誌 91(10), 655-658, 2007-10-01

2. 小林芳郎編著:健康のための心理学,9章2節

3. Dailymail:http://www.dailymail.co.uk/health/article-2532705/10-winter-without-seeing-sunlight-week-increasing-risk-mental-health-problems.html

4. Hollwich F, Dieckhues B.: The effect of natural and artificial light via the eye on the hormonal and metabolic balance of animal and man, Ophthalmologica. 1980; 180(4):188-97.

5. ジェイコブ・リバーマン著:光の医学―光と色がもたらす癒しのメカニズム,5章

6. 沼中秀一、天野健太郎、高橋祐樹、加藤信介、高橋幹雄: 知的生産性向上を目指した執務空間における 外部の自然環境の導入効果に関する実態調査, 空気調和・衛生工学会論文集  No.219,2015年6月

7. 田中健一郎,鳴尾誠浩,井戸滋,福田健一,山本祐也,江崎佐奈:シンクロ調色LED照明システムの開発, Panasonic Technical Journal Vol. 58 No. 2 Jul. 2012

8. A. A. Kruithof, “Tubular luminescence lamps for general illumination,” Philips Technical Review, vol.6, no.3, pp.65-73, 1941.

 

 

2017/04/05 カラーライトセラピー   crystalblanca
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